強い結合と弱い結合
違いが分かれば記憶術習得は早い
上達のポイントは
「強い印象のイメージ」を知ること
記憶術をひと言でいうと、「無関係な2つの単語を、強力なイメージによって結びつける記憶法」ということになります。関連性のある2つの単語なら、どんな関係なのかをしっかり理解すれば、時間はかかるかもしれませんが覚えられます。しかし、記憶術ならその関連性をまったく理解しなくても、たちどころに覚えられるのです。そして、そのために利用するのが、これまで練習をしてきたイメージ連結法という武器です。
しかし、論理的な理解力に個人差があるように、イメージ連結の技術にも個人差があります。多くの場合、その差は練習量の差にすぎませんが、初歩の段階でやり方を誤ると、いくら練習してもなかなか記憶術は上達しません。筆者は、何人かの記憶術挫折者に直接お話をうかがう機会があり、直接指導をしてきましたが、そのほとんどが第1章で学んできた「2項目のイメージ連結の基本」ができていないせいでした。
では、記憶術の市販本を何冊も読んだり、高いお金を払って記憶術セミナーに参加したりした人が、なぜこんな簡単なことさえ身についていなかったのでしょうか。それは上のタイトルにもあるように、「強い結合と弱い結合」について学ばなかったからです。
イメージ強弱の4段階グラデーション
イメージの強い結合と弱い結合は、試行錯誤を繰り返せばだんだんわかってきますが、それでは時間と情熱のムダ使いとなります。すでに例題の解説などで、頭の中では「強いイメージづくりのコツ」が分かってきたと思いますが、ここでは強弱4種類のイメージ想定例を見比べて、記憶に残るイメージかどうかを実感していただきましょう。例題は、「お父さん ― ちゃんこ鍋(なべ)」です。「お父さんが○○をした(された)という情景をA~Dまで4つ用意したので、強い順に並べてみてください。
●お父さん ― ちゃんこ鍋(なべ) (A) お父さんが(うっかりして)ちゃんこ鍋につまづいた。 (B) お父さんがちゃんこ鍋を(おいしそうに)食べている。 (C) お父さんがちゃんこ鍋の中に放り込まれた。 (D) お父さんが(怒って)ちゃんこ鍋をひっくり返した。 |
(B)が最も記憶術らしくなくて、弱いイメージなのはすぐにわかりますね。その他はどれも合格点ですが、同じ合格でも「優・良・可」の違いがあります。次に弱い順に並べてみましょう。B―A―D―Cの順になります。
(不可=B) お父さんがちゃんこ鍋を(おいしそうに)食べている。
(可=A) お父さんが(うっかりして)ちゃんこ鍋につまづいた。
(良=D) お父さんが(怒って)ちゃんこ鍋をひっくり返した。
(優=C) お父さんがちゃんこ鍋の中に放り込まれた。
Bの「ちゃんこ鍋につまづいた」は実際にその場面にいれば印象は強烈ですが、空想の世界ではあとで「何につまずいたのか、わからなくなるおそれ」があります。
Dの「ちゃんこ鍋をひっくり返した」は実に記憶術的で、最善に近いイメージでしょう。でも、この場合はもっと強烈な情景がありました。
C「ちゃんこ鍋の中に放り込まれた」はどえらい出来事です。かなり派手なアクション映画かアニメでしか見られないでしょう。多くの場合、「お父さん」は自分の父親に登場していただくわけですから、なおさらインパクトは強くなります。
以上を図式化すると、強弱は次のようなグラデーションになります。
強い | 鍋の中に 放り込まれた |
怒って鍋を ひっくり返した |
うっかりして 鍋につまづいた |
ちゃんこを おいしそうに 食べた |
弱い |
少し補足しますと、「怒って鍋をひっくり返した」までは、かなり異常な行動ではあっても「当たり前の世界」に属します。でも、「鍋の中に放り込まれた」はもはや当たり前の世界から外れて、奔放(ほんぽう)な空想の世界に入っています。
イメージの強弱を見分ける例題
次に2項目連結のイメージ例を各問3つずつ用意しました。正解を当てるだけでなく、できればその理由も考えてみてください。
例題8 2単語連結のイメージ例として、いちばん強いものはどれですか。 ①オオカミ ― 洗濯機(せんたくき) (a)オオカミが洗濯をしている。 (b)オオカミが洗濯機の中に入りこんだ。 (c)オオカミが洗濯機を持ち上げた。 ②カマキリ ― ラーメン (a)カマキリがラーメンを頭からかぶった。 (b)カマキリがラーメンを食べている。 (c)カマキリがラーメンの中に入っていた。 ③フライパン ― ゴミ箱 (a)フライパンをゴミ箱にたたきつけた。 (b)フライパンをゴミ箱に捨てた。 (c)フライパンがゴミ箱をけとばした。 ④納豆(なっとう) ― 窓 (a)納豆が続々と窓から侵入してきた。 (b)納豆を窓のそばでたくさん食べた。 (c)納豆が窓にべったりついている。 ⑤トラック ― おにぎり (a)トラックで大きなおにぎりを運んだ。 (b)トラックが大きなおにぎりの山に突っ込んだ。 (c)トラックから大きなおにぎりがたくさん転げ落ちた。 |
例題8の解答と解説
①正解―(c)オオカミが洗濯機を持ち上げた。
オオカミを擬人化している上に、乱暴を働いています。
(a)オオカミが洗濯……擬人化はよいが、その割には弱い。
(b)オオカミが洗濯機の中に入りこんだ……姿が見えなくなるのが欠点。
②正解―(a)カマキリがラーメンを頭からかぶった。
カマキリを擬人化している上に、自虐的な異常行動をとっています。
(b)カマキリがラーメンを食べている……擬人化ならまずまず。
(c)カマキリがラーメンの中に入っていた……カマキリが小さいままなので弱い。
③正解―(c)フライパンがゴミ箱をけとばした。
フライパンの擬人化は、うまくイメージできれば強力。乱暴させるのがよい。
(a)フライパンをゴミ箱にたたきつけた……乱暴だがあり得る行動。
(b)フライパンをゴミ箱に捨てた……いちばん普通で忘れそう。
④正解―(a)納豆が続々と窓から侵入してきた。
この場合は擬人化しないほうがエイリアンのようで強烈。ありえない光景
(b)納豆を窓のそばでたくさん食べた……どこで食べようが印象に残らない。
(c)納豆が窓にべったりついている……困った事態だが、異常とは言えない。準合格
⑤正解―(b)トラックが大きなおにぎりの山に突っ込んだ
おにぎりの巨大化により、派手な事故を演出できる。
(a)トラックで大きなおにぎりを運んだ……トラックで何かを運ぶのは当たり前。
(c)トラックから大きなおにぎりが転げ落ちた……よくありがちな事故。
以上で、記憶術の最も基礎となる技術である「イメージ連結法」の解説とトレーニングを終わります。続いて、応用に不可欠な技術「イメージ変換法」と、記憶術の華「基礎結合法」へと進みます。
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