記憶の3段階とは
機械的記憶と忘却曲線
心理学では、面白いことに記憶よりも先に忘却の研究がなされました。百何十年も昔の話ですが、まずは「覚えたことは忘れる運命にある」という法則を知っておきましょう。いまだに覆ったことのない古典的学説です。
エビングハウスの忘却曲線
19世紀のドイツにエビングハウスという心理学者がいました。「人間の脳は忘れるように設計されている」ということを、実験によって確かめた研究者です。エビングハウスは意味のないアルファベットを3個一組でたくさん覚えさせて、その記憶が忘れられていくスピードを調べました。その結果、わずか20分で42%も忘れ、1時間後には56%、9時間後には64%を忘れるというデータを得ました。これを次のようなグラフで表したものが、有名な「エビングハウスの忘却曲線」です。

人間の脳は、生命の維持に必要のないものはどんどん忘れていくようにできているそうです。受験勉強は将来、社会で生きていくうえでとても大切なことですが、「これを暗記しないと、1か月後には重い病気になるかも知れない…」なんてことはありえません。命にかかわる問題ではないので、上の忘却曲線と同じように時間とともに記憶が消え去っていくわけですね。
エビングハウスの忘却曲線を前提に考えれば、次のような勉強法が効果的かもしれません。
①全部覚えてから15分後に復習をして、忘れたものは暗記をやり直す。
②さらに1時間後に記憶の確認作業を行い、忘れたものは再度覚え直す。
③前回忘れた項目が多い場合は、さらに2時間後に確認の復習を行う。忘れた項目が少ない場合は、数時間後か次の日に確認作業をする。さらに3日後に復習をする。
上の方法で暗記の勉強をすると、覚える項目数が多くなればなるほど、等比級数的に暗記の苦労は増大します。脳に負担がかかり、とても上のような作業はやっていられませんね。つまり、機械的な暗記作業では、時間とともに急激に忘れ去っていくのは宿命で、繰り返し学習には限界があるということになります。
記憶には三段階がある
ひと言で「ものを覚える」とか「記憶する」といいますが、記憶はそう単純なものではなく、3つの段階があると言われます。記憶のシステムはコンピュータに似ています。コンピュータではまずデータを入力します。データは一時保存され、必要ならハードディスクに保存します。保存したデータはいつでも取り出すことができます。同様に、私たちの脳でも物事を「頭に入れる」「保持する」「取り出す」という脳の作業が行われて、記憶が完成するわけです。
このことを脳生理学や心理学では、次のようにいかめしい言葉で表現します。
(カッコ内の左側が脳生理学、右側が心理学で使う学術用語)
①頭に入れる(獲得/記銘)
②保持する(固定/保持)
③取り出す(再生/想起)
少し注釈を加えますと、①の獲得(記銘)は意識的とは限らず、視覚や聴覚、触覚などを通して無意識に脳に入ってくる情報も含みます。その情報を②固定(保持)するのは脳のある部分が勝手に行う作業です。③の再生(想起)は思い出すことですが、意識的にも無意識的にも行われます。
試験のための勉強などでは、記憶は意識的に何度も行われ、それでもいったん頭に入った情報は保持されず、記憶が消滅することはよくあることです。また、保持されていても、肝心な時に思い出せないということもあり、これをど忘れなどといいます。
ちなみに、本サイトのテーマである記憶術は、厳密にいうと、①単なる覚える(獲得する)ための技術ではなく、②長期間にわたって記憶を保持する技術であり、③必要な時に確実に記憶を再生する技術でもあります。そこが今までほとんどの方がやっていたさまざまな勉強法と異なるわけです。
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